さーて、決意も胸に15分程昼寝を決め込むか、グーグー。起きてウロウロ。さてさてストレッチ、気持ちを高めて、ハードボイルドモードに・・・
少しずつ周りのピットから、ROTAX MAXのエンジンをウォーミングアップする音が聞こえ出す。他のエンジンとコースを走っているときの音は静かで、出ているスピードに似つかわしくなく感じさせるが、出陣を待つROTAX MAXの雄叫びは心地よく心をくすぐる。水温が高くなり過ぎるのを嫌って、俺はメカニックに極短いウォーミングアップを頼む「30秒だ、30秒もやりゃ、それでいい」。メカニック、「ハァ、そうっすか」。そんな気の抜けた返事をものともせず、俺は黒いもじもじ君なフェイスマスクを被り、その姿はあまり見られたくないので、すばやくヘルメットを被る。イスに腰掛け呼吸を整える。ひとつ前のレースのレースが終わり、仮表彰式が始まろうとしている。クルマは既に、ピットクルーがグリッドに運んでいる。俺はスモークシールドをやや閉じ、ゆっくりとグリッドに向かう。おっとその前に軽量化を少しでもしておこう。おれはヘルメットを被ったまま、便器の前に立ち、放尿をかます。んんん、これで0.1秒速くなったに違いない。大きい方もかましたくなったが、エア抜きでガマンした。再び俺はグリッドに向かって歩を進める。コース上に出てゆっくりとグリッドに近付く。ここは時間の狩場だ。日常の中では気付くこともないような時間の分子を追いかけ、斬る。慣性と語り、敵と味方とに振り分ける。鳴いて逃げ出そうとするタイヤを抑えつけ、エンジンにムチを入れ続ける。狩人達の位置取りを見、仕掛けを練る。俺は勝つ。
決勝もまた、目の前にキングがいる。目が合う「ストレートで押してよー」とキング。また言うか。ここはひとつビシッと言っておかなくてはならない。「置いていかないで下さいよ〜」しまった。素で腰低くしてしまった。もう話しせんと、シートに座ろう。シーンとしている。実況放送が遠くに聞こえる。レースクイーンが1分前のボードをかかげる。下から上へ、じっくりと見つめる。スモークシールドは便利だ。エンジンスタート。まずは勢い良く1コーナーをまわる。2コーナーへターンイン、加速・・・って加速しないのかよー!ここからペースダウンか?この瞬間8台からウゲー!という叫び声が聞こえた。ホントにそのままずっとスローペースでローリングが続く。低回転域でもたつく症状がでているので、これはつらいことになるだろう。キングは落ち着いている。チュピっと燃料ホースをつまんで、流量を減らしているようだ。脂汗がにじみ出てくるなか、やっと最終コーナーに辿り着く。スタートやり直しになることを祈ったが、日章旗は振られた、が、加速なんてしやしない。キングの背中はどんどん小さくなっていく。後ろのクルマがドンと押してくる、あ、ありがとう。後ろの皆様、ごめんなさい。どえらく抜かれてから、なりふり構わぬパッシングを仕掛けていく。記憶がとぶ。無意識に、だが冷静に攻めていく。2コーナーでインに飛び込む前のクルマ、入られたが最後、続いて俺も行く。立ち上がりで抵抗を試みられる。よく見りゃ肋骨じゃないか。しばし並走、だが前にでている俺は、チームメイトなのに、ドアを閉じ、また攻撃再開。セカンドグループの頭にたち、トップグループを追う。5台が固まっている。少しずつ差が縮まっていく。追い付いてやる。ジワジワと差を詰めながら周回を重ねるが、2コーナーでイン側に顔を出して来る奴あり。防ぎ、一周まわってまたストレート。スリップに入られているか、ストレートの伸びが悪い。そんなやり取りを3周ほどして、2コーナー、また顔を出される、防ぐ。膨らみながら立ち上がる。次のコーナーもリヤが流れる。隙をつかれインに飛び込まれ、抜かれる。すぐさま反撃に転じるが、次のコーナーで、スバババっと音がする。走りながらクルマをキョロキョロ見回す。不安をおぼえながらストレートを駆け抜け、右コーナー、無事。左コーナー、こ、これは。右コーナー、無事。右から左、ドバー!これはパンクだよね。パンク!もう、走れる状況じゃないとこまでになってしまった。なす術なく、ピットに帰る。2コーナーでインに入られたときに、フロントカウルが、右のリヤホイールに入り込んだようだ。ビードストッパーが3本ともポッキリ逝ってる。
俺はグローブを投げ付け、計量もせずにクルマをピットに戻して行く。終わった。
ムカムカする気持ちを抑え、肋骨の応援にまわろうと最終コーナー付近に向かうが、辿りついたときにレースが終わった。勝者が誰かも知らない。仮表彰を見るのも虚しいので、踵を返してピットに向かう。しばし遠くを見つめた後、落ち込む間もなく、次のレースに頭を切り替える。茂原はドライバーだけが敵じゃない。イタル、イアメのエンジンも敵になる。だが負けるわけにはいかないんだあ!ハアハア