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嘘も本当もあった映画「スティーブ・ジョブズ」の感想

先日、品川プリンスシネマでマイケル・ファスベンダー主演の映画「スティーブ・ジョブズ」を元NeXT社員である私が観てきたのでその感想を書いてみようと思います(勢いだけで書いていきますので読みにくかったらごめんなさい)。

最初に結果だけ書いておくと、個人的には非常に面白くって2時間があっという間でした。エンドロールが出た時は「えっ?もう終わり?」って思っちゃいました。

何が面白いかっていうと、通常は時系列でたらたら2時間で語られるスティーブの歴史的お話が大きく3つに分けられていて、それぞれがぎゅっと凝縮して一度に怒濤のごとく語ってしまうことで無駄なく効率的に、かつ緊張感を生むことに成功していたからです。

ただ、私には面白いものの、他の人がみたら効率良すぎて何がなんだかわからないという「置いてけぼり」状態になるんだろうな、というのは観ながら思いました。なのでそういう人は緊張感は感じられなかったと思います。

というのも、この映画では基本的には登場人物についての説明というものがほとんどありません。まあ、最低限スティーブ・ジョブズという人は知っているでしょうし、しかもみんなが知っているスティーブ・ジョブズはiPodやiPhoneという革新的な製品を作って名言を沢山残している尊敬できる天才、というものだと思いますが、この映画の中のスティーブにはそういう雰囲気はまったくありません。実にひどいわがままなで勝手な最低のやつとして描かれています(最後はいい人っぽくなるんですがw)。

だからまずそこで躓いちゃうんですよ。

しかも、第1幕とも言える1984年のMacintoshの発表会の会場でのシーンにはアンディ・ハーツフェルドというプログラマがよく登場してくるのですが、映画だけを観ると不具合もちゃっちゃと修正できないダメプログラマのような印象しか与えません。アンディ・ハーツフェルドといえばもうめちゃくちゃ天才のすごい人なんですよ。でもアンディ・ハーツフェルドがどれだけすごい人なのかを劇中で描いている時間がないので、そういうのは知っているだろう的な前提を元に話しを進めていて、そういうすごい人に無茶を言うスティーブがさらに無茶苦茶な人であるということを表現してわけですが、それが伝わらないんでしょうねえ。

ちなみに、キーノートの前に不具合修正したりプレゼン資料を直させるというのはよくある話です。

「このプレゼン資料気に入らないから直ぐ直せ」「え、でも直していると開演時間に間に合いませんよ」「それができないとキーノートやらない」「うーんうーん」というシーンはスティーブの場合よくある話です。本当の話です。たいへんなんだよ、スタッフは。

でもキーノートの前にスティーブに文句を言うために人がここぞとばかりにわんさかやってくる、というのは嘘です。これは映画の為に作られた設定です(ちなみにあんな感じで違う事でぎゃーぎゃー騒いでいるのは本当です)。

でもこの設定のおかげでキーノートの前の緊張感とお互いに罵倒しあう緊張感が見事にマッチしていました。この構成を考えた人、偉いなあ。

で、その罵声を浴びせ合うシーンですが、真実ではないかもしれませんが、スティーブのセリフはかなりスティーブに近いものだと思います。こう言われたらスティーブだったらこう言い返すだろうな、ってのがちゃんと言っていて全く違和感がありませんでした。しかもちゃんとスティーブのあの早口の口調でです。そう、スティーブ・ジョブズって人はあんな人なんですよ。

で、ウォズがスティーブに「お前はプログラムも書けないし釘も打てないじゃないか」って言ったことに関して「演奏家は楽器を演奏する。私はオーケストラという楽器を演奏する」と答えるシーンがあるのですが、これは多分嘘(創作)です。スティーブは指揮者みたいだと言ったのは私ぐらいのものだと思います(参考:「スティーブ・ジョブズの下で働くことの魅力って?」って記事をサルベージ)。

でも嘘でもこのシーンはよかったなあ。そう、スティーブは指揮者なんだよね。ダニー・ボイル監督、わかってんじゃん!って思いましたよ。

そう、ウォズはまだ人物描写があってよかったんですよ。しかもAppleファンの中では有名人ですからね。でもこの映画でよく出てきたジョアンナ・ホフマンという女性は人物描写がなくて、映画だけ観ていると普通にマーケティングかマーコムの人かと思っちゃうのですが、実はマーケもやるエンジニアです。その後、NeXT設立時にAppleやめてNeXTに入っているのでスティーブに気に入られているのでしょう。でもこのジョアンナ・ホフマンがなぜこの映画でこんなに登場するのかよくわかりませんでした。

多分それはもう2人の映画によく登場した昔のGFのクリスアンと娘のリサちゃんという女性との比較のため、なのかもしれません。

まあ、スティーブがこの2人に対してひどい対応をしていたというのは伝記などでもよく書かれている話なので劇中でのあれこれはそんなもんだろと思うのですが、そういうの知らない人が初めてみたら「えっ、何、その態度?ひどくね?」と混乱するでしょうねえ。しかもなんでそんなひどい対応するのかの説明もありませんしね。

でも知っている人にはそういう説明が一切無いのがいいんですよ。映画として話がテンポよく進んで行きますからね。だから私は楽しめたのです。

で、第2幕であるApple追い出されてNeXT作って1988年にその第1弾であるNeXT Cubeの発表会になるわけですが、ここでも同様にキーノートの前にいろいろな人が登場して罵倒しあいます。

ちなみにここでは新しいOSはできていない的なお話をしていますが、これは嘘です。NextStepという素晴らしいOSがベータ版ではありますが出来上がっていて、しかもIBMにそれをライセンシングすることがこの時点で決まっていました。

「AppleにOSを売りたいからAppleの出方を見ててOSを完成させていない」というのは1997年にNeXTがAppleに買収された時の事実から来た話で、1988年当時はまさかAppleに買われる/売るとは思っていませんでした。

ちなみに第2幕ではアビーという名の青年がちょこちょこ出てきましたが、この人はNeXTのソフトウェア担当副社長でありカーネギーメロン大学でMachカーネルを開発した天才であり、非常に重要な人です。でもそういう説明がないので時計アプリケーションを4つも起動していたらスティーブから「2つでいい」と言われた情けない人になってしまっていたのが残念です。

それにしてもこの映画ではNeXTについての時間がたくさん取られていて非常によかったです。これまでの伝記や映画でのNeXTの扱いは実にぞんざいでしたからね。あのNeXTのロゴがどーんとスクリーンに映っているのを見た時はじーんと来ましたよ。これでNeXTという会社があったことを世の中に人に知って貰えれば幸せです。

そんな感じで登場人物の背景などの説明がまったくなく話はどんどん進んで行って第3幕である初代iMacの発表会である19881998年になるわけですが、この幕のシーンも結構嘘が多くってちょっと笑ってしまいました。NewtonというPDAの開発を中止したかったのは別にNewtonが5本の指で操作できないからでもありませんし、iPodを開発したのは娘がウォークマンを腰からぶら下げているのを見たからでもありません。すべて未来の事実からきた作られたお話ですね。

ちなみにこの3幕で面白かったのは、世界が熱狂したあのボンダイブルーのスケルトンiMacをリサちゃんが「こんなおもちゃみたいなの作ってて満足なの!」的なことを言っていたところでしょうか。確かに今見るとおもちゃみたいで、その後もカラーバリエーションを変えるだけで売れていったというのは冷静に今考えてみると不思議でなりません。でもまあこの幕はリサちゃんと仲直りするためのものなので、その他は割とどうでもいいんでしょう。

その他にもいろいろあるんですが、この映画、現在のAppleの役員達やスティーブの家族には不評なようなのです。でも、その人達は最初のApple→NeXT→再度Appleという中でそのすべてに付き合っているいるわけではないので、なんだかなあって感じです。

ちなみにそのすべてに付き合ってきた人は1人しかいないと思うのですが、その人はきっとずっと沈黙を守っていくんだろうなあ。

さて、そんな感じの映画なのですが、じゃあ一般的な映画としてどういう風に見ればよいかというと、映画のキャッチコピーが、

初めて明かされる父としての顔―
心を揺さぶる、不器用すぎる親子の愛とはー?

という親子の愛の物語なんだそうなので、そういう観点で見るといいのではないかと思うものの、そんなの観衆は誰も望んでいないよねw

そんなわけでAppleとかスティーブの事が好きな人じゃないと面白くない映画だと思いますし、嘘と本当が混ざっているのでなにが真実なのかわからない映画なので、そういう人は火星の映画でも観た方がよいと思います。

でも私は楽しみました。小ネタがいっぱい仕込まれていて覚えきれなかったのでもう1回観たい。つうか映画観ながら副音声であれこれ喋りたいw

映画『スティーブ・ジョブズ』公式サイト

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このページは、nagasawaが2016年2月26日 21:55に書いたブログ記事です。

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